「『予防福祉』とは、ここで生まれた言葉です。介護や医療に頼らず、明るく健康に生きるためのアシストをしたいと…」。大学と連携した福祉事業開発を目的とした会社の創設から加わり、仕掛け人として多方面に活躍。この10月からは、対外に向けた産学官連携の健康サービス事業として『仙台元気塾』を立ち上げた。「元気な人が増えれば、本人や家族はもちろん、地方自
治体や国全体の負担が軽くなりますからね」。口調は柔らかく、眼鏡の奧に真摯なチャレンジスピリットが光る。
企業人であり、NPOなどのボランティアメンバーであり、いくつもの顔を持つ。一見すると多趣味に思えるが、それらは有機的に通じ合っているようでもある。
若い頃は映像情報機器の設計部門で働いた。その後、海外赴任の機会を得るが、渡航直前に父親が急逝。
断念して故郷仙台勤務の道を選ぶ。「こちらでは、医療情報システムの営業開拓で病院巡りでした」。そして、
大学のプロジェクトに招かれ、今に至る…。しかし、なんとも東奔西走の忙しさだ。
病院営業時代に直面した疑問をきっかけに参加した、代替医療関連のNPOでは、運営委員としてセミナーなどで啓蒙活動を続ける。「西洋医学だけでは限界があります。伝統医学や代替療法などを組み合わせた、全体観のある医療が必要と思います。
もちろん、何よりも病気にならないことが一番…」。興味あることには、とことん突っ走る性格とみた。
一方、大学のレストランなど飲食部門も手がけるうちに、スローフード活動に出逢った。今はスローフード・ジ
ャパン事務局長として、全国の組織を束ねることに奔走している。
さて、『仙台元気塾』の話題に戻ろう。ここでは「自分で自分の健康をデザインする」をテーマに、多彩なセミ
ナーを開講。メディカルフィットネス、アロマケア、フードデザイン…。そう!多趣味とも思われたさまざまな活動が、
見事に1つのプロジェクトに昇華されているではないか。
忙しいですね、と水を向けると、「今思うと、図面を引いていた頃が一番楽しかったかな。でも人生はそう甘くない(笑)」。今は仕事でもボランティアでも、アイデアを出すごとに手間が増え、結局自らの身を削っている。「食事も寝る時間も全く不規則。これじゃあスローフードも健康増進もないですよね(笑)。でも、覚悟を決めました」
。にこやかに切り返す様子に、辛さなどは感じられない。きっと、それを帳消しにして余りあるほどの、やり
甲斐があるのだ。
こちらが思わず、え〜っ!と驚いた。「趣味は料理を作ることと、食べること。昔は畑も作っていたんですよ」!
…対面しているスマートな企業幹部の印象と、かけ離れている。
「そもそも生まれが田んぼと畑しかない農村部。子ども時代は、本家の居久根を駆け回ってました」。
藁の燃える匂い、採りたて野菜の味などが、当時のまま身体に染みついているという。「『食』や『香り』は
人間の感覚を呼び起こすほどのインパクトがある。大切にしたいですね」。―ここで再度納得。幼い頃芽生
えた感覚を大事に育て、自分に正直に歩んだ結果が、ここにきて大きく花開いているのだ。それが仙台の
原風景から発していることに、同郷人としては誇らしく、嬉しく思えるのだった。