マグロが捕れるところ、どこでも出かけてゆく。そして行く先々で大漁を呼びこむ。今では一年の半分近く、魚の仕入れと店のオープン準備のために世界中を駆け巡っている。それが「うまい鮨勘」を率いる大将、上野さんなのである。
生まれ育ったのは石巻市渡波町。生家は石材業を営んでいたという。小さな頃より海に慣れ親しみ、鍛えられる毎日だった。同時に、小学生の時は相撲を、中学時代は柔道を、そして仙台育英高校ではレスリング部に入部。1対1で競う格闘技を通して誰にも負けない精神力を培っていった。
また料理が上手だったお母さんの影響もあり、食べものを作るのが大好きな少年でもあったらしい。高校卒業後は、仙台の調理師学校で1年間学び、その後東京の「青山大寿司」で4年間修行を積む。さらにハワイに渡り、ワイキキにある日本食レストランで1年間勤めた後に帰国。25才でのれん分けをしてもらい、「青山大寿司石巻店」を開店する。
毎朝市場に行き、セリで魚を仕入れる。その日の一番良い素材を使い、お客様に喜んで食べてもらう。この心意気でがんばった甲斐があり、すぐに評判の店になった。そしていよいよ30才の時に、以前からやってみたいと計画していた廻転すし店を石巻でオープンさせる。その時の店名が「すしカントリー」であり、お客様からは「すしカン」の愛称で呼ばれていた。「鮨勘」と、漢字に改めたのは仙台に進出した時のことだという。
「うまい鮨勘」は今では国内に25店舗、海外に3店舗をもつ仙台を代表するブランドのひとつと言っても過言ではない。「仙台に行ったら、すしは鮨勘で食べたいと言ってもらえる店をめざしてきました。」と語る上野さんには、出店した地域では常に NO.1を目指している熱い思いが感じられる。
昨年の11月には、仙台のメインストリートである一番町四丁目に、さらにグレードアップした新しい店「すし会席 鮨正」をオープンさせた。昼は松花堂、ばらちらし膳、にぎり膳など華やかなメニューを取り揃え、夜は会席料理、鮨膳で極上の味わいが堪能できる。2名から利用できる小部屋から12名用の座敷まで個室が7つあるので、ゆっくり寛げるのもうれしいかぎりだ。
最後に、上野さんが強運の持ち主であることを物語るエピソードをひとつご紹介しよう。それは100年も前から続くスペイン伝統の定置網漁の現場でのこと。前日まで不漁続きであった漁場に上野さんが行くと、その日のうちに150本の天然マグロが網に入り、次の日には500本、またその次の日は1000本と、たて続けに大漁に沸いたという。成果もさることながら、人間の手で暴れるマグロを追いつめてゆく危機迫るダイナミックな漁法に感動し、久しく眠っていた海の男の血が騒いだという。海が好きで、魚を愛してやまない上野さんの心が伝わる話であった。